(労働基準法)芸能人は「労働者」か?? 光GENJI通達
仕事をする上で、人が労働基準法上の労働者に該当するかしないかは大きな問題です。
該当するならば、労働基準法上の様々な規制を受けるからです。
例えば労働時間の規制、時間外労働に対する割増賃金、有給休暇等があります。
また、労働安全衛生法や最低賃金法において労働者の定義は労基法と同じですので、これらの法律の規制も受けます。
先日、某劇団において、25歳という若い劇団員が厳しい労働の末自ら命を絶つという本当に痛ましい事件がありました。
外部の弁護士による調査報告書によると、当該劇団は、所属して一定の年度までは「雇用契約」、それ以降は「委託契約」を結んでいたということです。亡くなられた方はこの委託契約に該当するということでした。
しかし、契約の名前が委託だからと言って、労働者に該当しないわけではありません。
労働基準法上の労働者の定義は以下のようになっています。
第九条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」
やや抽象的ですが、実際の個別の事例については、様々な事情を検討し、「使用従属性」の強弱によって判断されます。
例えば「仕事の依頼を受けるか断るかは自由」なのであれば使用従属性が弱いと判断する一つの要素となります。これは一例ですが、このように様々な要素を検討し、総合的に判断されるわけです。
また、芸能タレントについて具体的に示した行政通達があります。
原文は見つからなかったのですが、「昭和63年7月30日付け基収355号」です。
ここでは、以下の4要件のいずれにも該当する場合、労働基準法9条にいう労働者ではないとされます。
- 当人の提供する歌唱、演技等が基本的に他人によって代替できず、芸術性、人気等当人の個性が重要な要素となっていること。
- 当人に対する報酬は、稼働時間に応じて定められるものではないこと。
- リハーサル、出演時間等スケジュールの関係から時間が制約されることはあっても、プロダクション等との関係では時間的に拘束されることはないこと。
- 契約形態が雇用契約でないこと。
これを通称で「光GENJI通達」と呼ぶそうです。
ジャニーズのグループである光GENJIは深夜の生放送にも出演していたところ、15歳未満のメンバーが在籍していたため、年少者の深夜業を禁止する労働基準法の規定に違反するのではないかという指摘があったのです。
労働基準監督署も判断に迷ったことと思われます。そこで、本省から上記の通達が発出されたということのようです。
なお、光GENJIは労働者ではないという判断がなされたようですが、業界は自主規制として年少者の深夜の放送を禁止しているようです。
この通達が発出されたのは深夜業がきっかけですが、冒頭でも述べた通り、労働者に該当するとなれば他にも時間外労働の上限規制、最低賃金等の様々な規制を受けます。
タレントのような仕事だと、スキル向上のためには時間をかけ始めたらキリがないのでしょう。それでも労働による病気やメンタル不調が原因で命を失うという悲しい出来事はなくなってほしいものです。
労働基準法が適切に運用され、労働者の保護がなされることを願っています。
なお、上記の光GENJI通達は令和元年度の社労士試験の択一式試験で出題されました。
行政通達からも多く出題されるので、テキストに掲載されているような主要なものについては押さえておきたいところです。